第85話   庄内竿の根っ子   平成16年03月09日  

庄内竿の名竿には、二面性がある。ひとつは手に持つしっくりとして大きな魚にも耐え得ると云う実践に耐える竿である。もうひとつは根から竿先までなんともいえぬ物をかもし出し美的鑑賞に堪え得る竿で無ければならない。この二つが揃わなければ名竿とは呼べなかった。江戸の昔より庄内藩の武士も、そのように思っていた。だから秋保政右衛門親友の「名竿は名刀より得難し」等と云う名文句が残っている。刀剣の鑑定を行うように名竿の鑑定家も存在した。幕末より明治にかけて竿作りに専念した丹羽庄右衛門等は、晩年少し良い竿があれば直ぐに大金をはたいて買い漁り、自ら「好剣愛竹居士」と自称していた。

手に持つとしっくりと来て、それで居て鑑賞に耐える重要な要素に根っ子が挙げられている。その庄内竿の根っ子には大きく分けて二種類ある。

庄内竿の好きな人は直ぐに分かるが、一つは芋根(俗にズキ根と云う=当地でズキ芋と云う芋の根にそっくりだから・・・)で、丸くずんぐりむっくりしている根の事である。芋根は比較的浅い所(三寸から5寸位)に生えているので、風雨にさらされた時に倒れない様にしっかりと大地に根を張って耐える事から太くずんぐりとしている。

後一つは牛蒡根(ゴボウ根)と云われる物でゴボウの様に細長く長い根の事である。こちらは根が一尺から二尺以上の深い所に生えているから、太くならずとも風雨にさらされても大丈夫なので細長い根になる。

庄内竿の愛好家から最も喜ばれるのは、芋根と呼ばれる根である。その次にゴボウ根の丈の短い物である。見た目が芋根の方がとても良く、竿を使った時、手にしっくりと馴染み易いからであろう。しかし、芋根の丈はどちらかと云うとずんぐりむっくりしているものが多い。それに対して牛蒡根の場合は細長く良竿が多いとされている。

根から竿先まですべて良いというものは中々ないのが実情である。中々無いから根から竿先まで一本物の名竿と呼ばれるものが少ないという事も頷けるのである。過去の名人たちは採ってきた牛蒡根の良い竿をどうしたかというと使いやすいように自分で芋尻を付けたものがある。庄内竿の本来の形からは邪道ではあったが、せっかくの名竿になる竿を実践で使わないのでは、もっと邪道であると考えたからに相違ない。

庄内竿の完成者と云われた陶山運平は硬い木を削って芋尻を作り接着し、明治の竿師上林義勝は竿尻に籐を巻いた。また昭和の名人と云われた山内善作は芋尻の付け根を真鍮板で固めその上に糸を巻いて漆を掛けたと云われている。

とは云え、長い間使い込まれて飴色に変化した根から竿先まで一本物の庄内竿の延べ竿は、野武士の風格があり、なんとも云えぬ味を醸し出している。ただ残念ながらその多くが、竿の手入れの出来ぬ世代に代わり、使われぬまま博物館の展示品や箪笥の中の塵の状態になってしまっていることは残念でならない。

芋   根 牛 蒡 根 左平野竿の牛蒡根と右作られた芋尻 飴色に変化した庄内竿   左側一本目平野竿の牛蒡根 右端は芋尻と牛蒡根の中間?